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秋田家庭裁判所 昭和39年(家)832号 審判

申立人 原田シズ(仮名)

被相続人 林スエ(仮名)

主文

被相続人林スエの別紙目録記載の遺産を申立人に与える。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、申立理由として、つぎのとおり述べた。

被相続人スエは、山田スズの私生子として生れ、スズが婚姻したのに伴いその夫山田吉作の養女となり、弟多作とともに育ち、私生子ミネ、同タカをもうけたが、これらの関係者はいずれも死亡し、昭和一四年頃は被相続人は別紙目録一記載の土地(以下「本件土地」という)と、地上家屋を所有して、一人だけで生活していた。申立人は、被相続人の姪ミサの子であり、昭和一〇年頃から被相続人と交際し、被相続人が昭和一四年一一月頃中風(高血圧と思われる)で倒れ床に臥して以後同年一二月二三日死亡するにいたつた約一月半位の間、主として、申立人が被相続人方居宅に毎日のように通つて看病と身の廻りの世話をし、また、葬式も申立人の費用ですませた。しかし、被相続人は、家督相続人を選定しておらず、相続人が不存在のままとなつた。本件土地は被相続人死亡後申立人が事実上使用し今日にいたつているが、その間別紙目録三記載のように本件土地上の家屋移転料として秋田市から金員を受領し、これに自己資金二八万円を加え仮換地後の本件土地上に家屋を建築し貸家としており、本件土地の固定資産税は申立人が支払つて来た。

秋田家庭裁判所は昭和三七年一一月四日原田治作を相続財産管理人として選任し、所定の手続により相続人を捜索したが、公告期間内に相続権主張の申出がなかつた。よつて、特別縁故者である申立人に対し、被相続人の遺産である本件土地等の分与を求める。

被相続人(同籍者を含む)、申立人の各戸籍謄本および申立人原田治作の各審問の結果、当庁昭和三七年(家)第一一八〇号相続財産管理人選任事件の調査官の調査報告書と一件記録、当庁昭和三八年(家)第八四八号相続人申出の公告事件記録を総合すると、申立人主張の各事実が認められる。申立人は、被相続人の病臥後短期間ではあるが看病、身の廻りの世話をした点で民法第九五八条の三第一項にいう「被相続人の療養看護に努めた者」に該り、死後被相続人の葬式をした点および現行民法ならば相続権を有する姪の子である点では、「その他被相続人と特別の縁故があつた者」に該当する。しかし、本件のように、相続開始後二五年を経た今日遺産の分与を求める場合には、遺産の占有使用状況、第三者の権利を害しないか等、遺産の上に仮に築かれた法秩序を乱さないかどうかをも考慮して分与の当否を決しなければならない。本件土地につき国庫れい入の手続がとられず放置され、申立人が二五年の長きにわたり占有使用し他に本件土地につき所有権を主張すべき利害関係人もない本件では、申立人の従来の占有使用が適法であるとはいえないが、被相続人スエの遺産である本件土地(その果実である占有開始の昭和一四年一二月二三日から本審判確定の日まで申立人が支払うべき賃料相当の損害金全額を含む。)および仮換地指定に際し、本件土地上にさきに存在した被相続人所有家屋移転料として秋田市から交付された金八万〇、〇〇〇円は、これを申立人に与えるのが相当である。よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高木積夫)

別紙

目録

一 従前の土地

秋田市川尻町字総社前○○○番一

宅地 一〇〇坪

仮換地後の表示

同所 ブロック二○ロット一

宅地 七八坪八勺

二 前記一の被相続財産(管理人原田治作)が申立人に対して有する昭和一四年一二月二三日以後本審判確定の日までの間における賃料相当の損害金請求権の全額

三 秋田市が昭和三四年八月頃被相続人所有であつた家屋移転料等として支払つた(申立人が仮に受領したもの)金八万〇、〇〇〇円。

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